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2024.09.30

研究助成

古川医療福祉設備振興財団第9回研究助成による研究報告書 講評

※敬称略 役職等は研究助成申請時のもの


■研究助成金対象者
東北文化学園大学医療福祉学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻 講師 鈴木 博人 様
■研究課題名
長下肢装具を使用した歩行介助技術の“コツ”の定量的可視化
―脳卒中片麻痺者を想定して

本研究は、長下肢装具を使用した歩行介助技術において、慣性センサー式3次元動作解析装置を利用し、理学療法士の技術特性を定量的に分析し可視化することと、その教育効果を検討することが目的の研究である。
脳卒中治療ガイドラインには、早期歩行練習が推奨されており、急性期医療機関から長下肢装具を使用した歩行練習のニーズは増えてきている。しかし、理学療法での歩行練習場面において脳卒中重度片麻痺患者(特に重度脳卒中片麻痺者)への長下肢装具を用いた後方介助歩行は相対的に転倒などのリスクが高く、そのような技術を実践する前の練習方法として本研究は有用性を示している。理学療法学生のみの教育効果でなく、若手の理学療法士の教育にも十分反映できる内容である。今後研究を重ね、より効果的で安心・安全な技術教育の方法を明らかにしていただきたい。


■研究助成金対象者
東京都立大学大学院 都市環境科学研究科建築学域 博士後期課程 小林 誠 様
■研究課題名
遊休地の活用および既存建築のリノベーションによる生活困窮世帯の児童・生徒を対象としたサードプレイスの計画

近年クローズアップされている概念(生活困窮世帯の児童・生徒を対象としたサードプレイス)を取り上げ、施設全体に対する新たな視点を得るために、児童・生徒の活動に直接・間接に関係するスペースの在り方、および他の施設要素との関わり合いを解明しようとする努力は、今後のサードプレイスを含む関連施設の設計・整備に大きな力となると考える。
調査手法に関しては、現状把握のために、図面収集・アンケートなどから、代表例の現地調査等の資料収集、特にサードプレイスを意識した施設のプログラム収集、そして児童の動き・活動と施設細部の関係をつかむための手法は細かく丁寧であったと推察する。
一人当たりの活動スペースの値を見ると,新築施設と比較して改修施設の面積が広くなっている。これは、施設管理者が現状を切実に具体的に捉え、新しい社会課題を積極的に解決し、子供たちの居場所を快適にしようと努力した結果と考えられる。
子供たちの生活を活気あるものにするためにも、新築・改修を問わず建築計画の段階で、子供たちの居場所であることを感じられるようにしたいと考える。
社会的に必要となり、当該施設建設計画の中で大きな要因となる「子供の居場所」を理解し、建築計画手法に結びつけ、その意味合いから他の計画要素とのつながりを提起し、実事業に落とし込むことは意義のある試みであると考える。
今後の活動に期待するとともに、実作での子供たちの活動を観察して、新たな提案に結びつけるためにも、実作の検証にも期待する。


■研究助成金対象者
純真学園大学 保健医療学部 医療工学科 講師 石田 開 様
■研究課題名
ソフトウェア無線と機械学習技術の融合による新しい医療電磁環境評価システムの構築

機械学習とソフトウェア無線(SDR)を用いたシステムの構築により医療現場における電磁環境の評価や電磁ノイズ源の把握を可能とする測定機器開発を検討課題とする研究である。
近年の医療現場では、多種多様な無線通信が利活用されているが、電波干渉対策などの電波環境管理は医療機器点検器具のスペクトラムアナライザが高価で、さらにその評価判定が困難であるため導入が充足されず電波障害の発生予防が課題となっている。
本研究では、従来法に変わる安価なSDRを用いた医療電磁環境の評価システムの受信性能の精度検討ではダイナミックレンジの確保とアンプゲインの調整による真値獲得結果が示された。電波測定のデバイスとしての機械学習による支援環境の整備についても送信信号の帯域幅によっては規格に準拠した通信方式以外のデータ取得が必要ではあるが、電波環境の推定アルゴリズムの搭載の可能性が高い非常に有益な電波測定環境の提供が立証されている。
実臨床での検証を加えて更なる有効な活用検討が期待される。


■研究助成金対象者
工学院大学 建築学部建築学科 助教 江 文菁 様
■研究課題名
産後ケア事業における医療福祉環境に関する研究
―台湾の産後ケアセンターをケーススタディとして―

工学院大学の江 文菁氏は建築家の視点をもって、提供された研究助成金の範囲内で、かつ限定された短期の研究実施期間のもと、その研究課題である「台湾の産後ケアセンターをケーススタディとして 産後ケア事業における医療福祉環境のあり方」について、よく研究されましたことに対して、まず敬意を表します。
研究目的として、日本の産後ケア事業の参考に寄与できる取組みを把握することとし、その研究方法としては、まず文献調査をベースとして284施設の設立主体・形態、規模、面積、スタッフ数、利用料金を調査し、利用者に対するアンケート調査においては、アンケートの回答91件、うち有効回答88件を得て、利用者及びその家族の貴重な声を拾い、施設ヒアリング調査においては、現地台湾で6か所を訪問して、その産後ケア事業の実態を把握するに至っています。
そして、その研究結果においては、台湾における産後ケアの由来、「坐月子中心」と「産後護理之家」の違い、月嫂(ユエサオ)と言われる産後ドゥーラの存在についても明らかにしています。さらに、アンケート調査においては、利用に対する考え方や産後ケア施設が地域性を有することを明確にし、ヒアリング調査においては、建築設備、感染管理・セキュリティ、面会・宿泊のあり方、産後ケア期間、利用料金等について、6か所の施設の違いを明確にしています。
これらの情報をベースに、母子保健法の一部改正(2019年12月)や産後ケア事業の法制化(2021年4月)が実施されてきた日本における産後ケア事業(訪問型、通所型、宿泊型)と比較して、日本においては産後ケア事業がまだ確立されておらず、利用者にとっても安心して利用できるレベルではなく、緊急用としても必ずしも適していないことを指摘しています。
したがって、今後の研究活動としては、日本の産後ケア事業における医療福祉環境はどうあるべきかにも言及して、ハード面及びソフト面から提言して、日本における産後ケア事業の確立に貢献されることを期待します。
例えば、産後ケアが普及し多くの施設が存在する台湾と、これから普及促進が期待される日本の、「お産」についての文化的、社会的、制度的な背景や考え方の違いなどの比較研究を継続することにより、両者の共通点と相違点がさらに明らかになり、施設やサービス、利用料金などのあり方など普及促進にあたっての手掛りとなり得ます。
また、出産総費用の構造(産前・出産・産後)、保険診療・自由診療の対象の違い、出産育児一時金などの補助・助成制度、本人や家族が活用できる産後サポート制度(出産休暇、育児休業など)の日台比較により、日本型産後ケア事業に対する利用者ニーズが把握できれば、産後ケアサービスの内容や必要施設数、利用期間、料金設定、施設規模やあり方、仕様を設定する上で有効な指標となるものと大いに期待します。


■研究助成金対象者
京都橘大学 健康科学部 理学療法学科 准教授 中野 英樹 様
■研究課題名
手指運動制御機構の加齢変容を基盤としたフレイル早期検出法の開発

本研究は,高齢者の手指運動制御機構の加齢変容の初期段階のフレイル(衰弱)に着目して、その早期検出法を開発するものである.
研究は2段階である。
①手指運動制御機構の加齢変容とフレイルの関連性を解明するため健常若年者97名と高齢者289名(有意標本の絞り込みで275名)を対象に磁気センサー型指タッピング装置を用い、若年者、高齢者から手指運動量を統計学的解析でその差を明らかにしており、標本数、数値解析のアプローチ方法においても信頼できる有意標本と思慮できよう。
②手指運動制御機構の加齢変容を代償する脳内神経基盤の解明では①の被験者のうち健常若年者20名、健常高齢者20名に①の指タッピング中に脳波活動を測定しており、脳内の運動領域(補足運動野、腹側前帯状皮質、背側後帯状皮質)の神経活動の増大が認められ、加齢変容の代償として同領域で過活動が生じていることを成果として挙げている。
今後は,両手協調運動課題における手指運動の特徴量の変容がその後のフレイルの発生を真に予測するかどうかについて検証する予定であるとされ、さらに両手協調運動を用いたトレーニングがフレイルの発生の予防に貢献するかどうかについても検討する必要があるとしており、その研究の今後を大いに期待したいところである。


■研究助成金対象者
北陸大学 医療保健学部 医療技術学科 助教 宮地 諒 様
■研究課題名
慢性足関節不安定症者の足関節運動制御に対するレッグプレス装置を用いた下肢協調運動トレーニングの確立

本研究は、慢性足関節不安定症に対するレッグプレス装置を用いた下肢協調運動トレーニングの即時的効果について明らかにしたものである。足関節不安定症は変形性足関節症の発症リスク増大や活動量減少につながる可能性があることから、治療者には進行を予防するための介入も求められる。本研究の結果では、足関節不安定症の進行につながるとされる足関節動揺について、通常のレッグプレストレーニングを行った群では増大していたのに対し、下肢協調運動トレーニングを行った群では減少していたことから、下肢協調運動トレーニングは足関節動揺の軽減に有効であることが明らかになったと同時に、現在一般的に実施されているレッグプレストレーニングの方法についての検討も必要であることが示唆されたと考えられる。
今後、本研究を踏まえ、下肢協調運動トレーニングの長期的効果についての検証、および怪我の予防により適したトレーニング方法を確立していくことを期待したい。


■研究助成金対象者
東洋大学 ライフデザイン学部 人間環境デザイン学科 准教授 冨安 亮輔 様
■研究課題名
アフターコロナにおける多世代交流と幼老複合施設に関する研究

幼老施設は利用者である幼児高齢者ともに社会的ルール教育や生きがいなどそれぞれメリットが多いといわれ全国で増加傾向にある。
本研究はアフターコロナの幼児施設と高齢者施設の場の作り方やプログラムに関する論文で、全国13施設を抽出しヒアリング調査したものである。研究成果として「交流のパターン」や「コロナ前後の比較」、「プログラムマネジメント」など記述されており、高齢者のさらなる高年齢化という時代の変化によりプログラムも変化するなどの指摘もなされている。
さらに、研究を進めるのであれば、平面プラン分析や各部門・部屋の位置や利用者同士、利用者と職員など具体的距離調査や設備的には室内換気調査などさらに調査対象施設が必要と考える。また、望ましい幼老施設の在り方や方向性を明確化していくことは大切である。
本研究は世代の絆づくり、ひいては地域共生社会づくりに向けての社会的要請でもあり、より詳細な分析を通じて研究を継続してほしい。


■研究助成金対象者
西九州大学 リハビリテーション学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻
准教授 中村 雅俊 様
■研究課題名
高齢者の筋肉量・筋質を改善させるためのトレーニング方法の確立
エキセントリック収縮を用いたトレーニングの有用性の検討

本研究は、加齢に伴う筋力低下・筋委縮が運動機能低下を招き、要介護・要支援の原因となることを念頭に、筋肉が伸びながら収縮する伸張性収縮を強調したトレーニング(ECCトレ)による筋力増加・筋肥大効果の可能性について調べたものである。高齢者19名に実施したECCトレ介入前後のデータ解析を行った結果から、大腿四頭筋の筋厚(筋肉量の指標)、筋硬度(筋質の指標)が有意に改善したこと、また膝伸展筋力、歩行能力、バランス能力の改善効果が報告されている。他に収縮時血圧の有意な減少や、ストレッチを用いないECCトレにおいて筋硬度の減少が認められたことは、自重のみによるECCトレの活用価値が高いとの結果報告となっている。
今後、高齢者が益々増加する中で、医療費、介護費の増加の抑制につながる本研究の意義は大きいと思われる。今後の更なる詳細な研究により、手軽にできる効果的なトレーニング方法の確立につながる事を期待したい。


■研究助成金対象者
日本医科大学付属病院 リハビリテーション科 言語聴覚士 主任 大橋 美穂 様
■研究課題名
舌骨上筋群に対する嚥下反射と同期した反複末梢磁気刺激の有効性の検討

誤嚥性肺炎は人口の高齢化に伴う医療の重要な問題であり、その予防法の構築は社会的課題である。近年、反復末梢磁気刺激法の舌骨・喉頭挙上筋群への応用による嚥下機能改善効果が注目され、研究者の施設で既に成果が示されている。本研究者はその効果のさらなる発展を期待し、嚥下反射に同期した舌骨上筋群刺激法について検討した。実施対象が限られる中で、重度の嚥下障害患者において効果が得られるなど、ある程度の効果が見られたが、今後症例を重ねて初期の研究計画を進めると共に、従来法との比較検討も加えた研究の発展を期待する。


■研究助成金対象者
札幌医科大学大学院 保健医療学研究科 赤岩 眞悠 様
■研究課題名
運動感覚を改善する新たなリハビリテーションの開発
-脳リズムに着目し経頭蓋交流電気刺激を用いた研究-

本研究は、幅広い患者に適応可能な運動感覚障害のリハビリテーション構築を目指し、経頭蓋交流電気刺激法(tACS)を用いた新たな運動感覚障害に対するアプローチの開発を目的とした研究である。
個人の脳律動に合わせたtACSは他動運動時のβリバウンドを増加することが明らかになり、このことからtACSは運動感覚を向上させる可能性があることが示唆された。しかし、今回の研究は、健常成人によって得られた結果であるため、実際の脳卒中患者にも適用が可能かを検証する必要性がある。また、本研究ではtACSによるβリバウンドの増強がパフォーマンスにどのような効果を及ぼすかは検討されていないので、更なる研究が望まれる。
経頭蓋電気刺激によって生じる電界は個人の解剖学的特徴によって異なることから、経頭蓋電気刺激の効果のばらつきが一部に生じているが、このばらつきをなくすための方法の検討も今後の課題と考える。


■研究助成金対象者
大阪大学医学部附属病院 臨床工学部 井上 瑠菜 様
■研究課題名
AR技術を用いた経カテーテル的大動脈弁留置術デリバリーシステムのクリンプ
操作支援システムの構築と評価

経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)は人工心肺と心停止を用いた従来のオープンサージャリーである大動脈弁置換術に比し低侵襲であるため、高齢者を中心に急速に発展している。最近は対象年齢も下げられ、大動脈弁狭窄の重要な治療手段となっている。実施施設も増えてきており、その普及において臨床工学技士の支援が重要になってきている。本研究は、複雑なデリバリー装置のセットアップ作業(クリンプ)を支援するAR(augmented reality)システムを導入するための研究である。テンプレート作成とその予備評価(非臨床)を4名で行っている段階であり、今後の発展を見通すことは難しいが、TAVIにおけるチーム医療としてのトレーニングと臨床支援技術へのAR導入は今後期待されるところである。


■研究助成金対象者
メディメッセ桜十字 桜十字予防医療センター 作業療法士 宮原 龍矢 様
■研究課題名
AIモーションキャプチャーを活用した歩容画像解析からの歩行習慣獲得への取り組み

本研究は、AIモーションキャプチャーを活用した歩容に対する視覚的フィードバックが、歩行姿勢や身体状況の改善に有効であることを報告したものである。AIモーションキャプチャーは、複雑な装置や技術を用いることなく歩行速度や安定性が測定できることから、歩行状態を簡単に評価するうえで非常に有用なツールであると考えられており、近年普及が進んでいる。
本研究では、被験者の多くが女性であり性別に偏りが見られたものの、被験者数は200名以上と十分であり信頼性は高いと考えられる。また本研究では、被験者の意識にポジティブな変化が見られたことも報告されており、AIモーションキャプチャーを用いたフィードバックが、活動量の増加などその他の要因にも影響を及ぼす可能性があることから、保健指導の側面でも有用であると考えられる。
今後、測定項目等さらなる検討を重ねながら研究を継続していただき、より簡便かつ効果的な運動指導の実現に寄与する形での発展を期待したい。


■研究助成金対象者
大阪大学医学部附属病院 医療技術部 臨床工学技士 石川 慶 様
■研究課題名
心停止を伴う心臓手術中のイオン化マグネシウム値の
適正な補正値の検討と術後不整脈発生との関連性について

心臓手術周術期における不整脈発現にかかるイオン化マグネシウム(iMg)補正の有効性について、人工心肺における管理手技による患者予後に及ぼす影響からその因子を解析した研究である。
陰性荷電物質と結合していない遊離のイオン化マグネシウムは生理活性を有しており、心臓手術患者の周術期において総マグネシウム(tMg)との相関は正常状態と異なる変化が報告されている。しかしながら、iMgの測定は保険収載されていないため測定機器が普及していないことなどが原因でiMgを評価せずにtMg値により盲目的にMgSO4のショット投与で補正を実施している人工心肺管理が課題となっている。
本研究では、症例数が少ないため影響因子の特定には至らないが、周術期における不整脈発現を人工心肺中の補液や腎臓からの排泄におけるiMg動態の評価によりその血中濃度が周術期の患者への影響に関与している可能性を示唆しており、さらに症例を重ねて特に小児領域の管理についても解析し、臨床へ反映されることが期待される。

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