2022.03.31
研究助成
古川医療福祉設備振興財団第7回研究助成による研究報告書 講評
※敬称略 役職等は研究助成申請時のもの
■研究助成金対象者
近畿大学 建築学部 教授 山口 健太郎 様
■研究課題名
建て替えを伴う環境移行調査からみたユニット型特別養護老人ホームの効果に関する実証研究
人生最期の時を過ごす介護施設は、本人の尊厳と大きく関係している。本研究は同一法人による多床室から個室ユニットに移転した特別養護老人ホームを対象として、利用者の行動や職員の業務内容について生活環境やケアの変化を探る研究である。研究結果は、利用者は生活行為の変化はないものの無為の時間が減少した一方、職員については入浴介助など身体的労働は減少したが精神的負担が増加する結果となった。近年の深刻な介護人材不足に対する解決に向けての方策を示す研究として高く評価したい。今後は移転による利用者の心理的負担感や職員作業軽減のための介助設備や情報機器のICT化の導入可否や有効性などについての研究も望みたい。医療施設は遠隔診療やオンライン服薬指導などバーチャルの動きもあるが、介護施設はロボットなど活用しても直接サービスは残る。令和時代の介護施設の在り方を示唆する調査研究を期待したい。
■研究助成金対象者
一橋大学大学院 経営管理研究科 博士後期課程 田村 桂一 様
■研究課題名
病院建築における投資意思決定の実態調査
病院を建設する場合の投資意思決定がどのようなプロセス、どのような方法で行われるかの研究である。近年建設を行った816病院に対してアンケート方式で回答を求め、63の病院から回答(回収率:7.7%)を得て、その中から経営主体別に自治体立病院、公的病院、民間病院へのインタビューを行い投資意思決定するまでの過程を明らかにしている。一方この意思決定行為を支援する立場のコンサル、設計、建設の企業に対しても同様の調査(29企業対象12件回答:回収率41%)を行った。個別事象が多いこともあり調査結果の取りまとめには苦慮した感が否めないものの、この種の研究があまり存在しないことから、ユニークな研究であることには間違いない。
しかし、投資意思決定するのに最も影響する組織(人物)を決定するに当たって最も需要視した点は何かが設問になかったことと意思決定をする時期での経済状況、建設物価変動状況など社会的背景との相関関係がどうであったか。ちょうど建設物価変動が最も上下した15年間に竣工した63病院であるのでその視点での考察が必要であったと考える。今後のさらなる分析に期待したい。
■研究助成金対象者
丸太町リハビリテーションクリニック リハビリテーション部 係長 東 善一 様
■研究課題名
難治性スポーツ骨障害に対する体外衝撃波の効果について
スポーツによる腰椎の疲労骨折を主体とする腰椎分離症は頻度が高く、リハビリテーション分野で理学療法士が関与する機会の多いスポーツ障害である。治療の基本は疼痛管理から骨融合へと繋げるものであるが、低侵襲治療である対外衝撃波はこれまで治療効果についてエビデンスの少ないことから、衝撃波治療と従来の保存的治療を18歳以下のスポーツ患者で比較調査した。
結果は衝撃波治療5例において初期の疼痛軽減に効果があったが、対照7例とは統計的に比較するまでには至らなかった。骨融合についても対象症例が予定より大幅に少なく、本研究での検証は出来ていない。体外衝撃波の腰椎分離症発症初期での疼痛改善効果については本研究である程度の結果が出ているので、この成果をもとに今後も本症への科学的検証を続けて欲しい。
■研究助成金対象者
帝京平成大学 健康医療スポーツ学部 理学療法学科 助教 守屋 正道 様
■研究課題名
前頭前野の活動を指標としたストレスの評価方法・緩和方法の開発
現在の社会問題でもある種々のストレスについて客観的評価法と緩和介入法の開発が待たれている。研究者はこれまで研究実績のある近赤外分光イメージング装置(NIRS)を用い、脳前頭前野の血流変化(酸化ヘモグロビン動態)が臨床現場でストレスの科学的評価になるか否かを健常人と施設入居の高齢者を対象に検討した。NIRSによる指標としてLIR(laterality index at rest)を用い、標準指標には心電図の周波数解析(自律神経系活性度)を用い、介入はトレッドミルなどの運動療法とした。結果として、ストレス負荷によりLIRに心電図の周波数解析と同様の反応が見られたことから、ストレス評価におけるNIRSの有用性を示唆した研究である。NIRSは血行動態にも依存することも踏まえ、多様な背景を持った自律神経反応を伴うストレスを、前頭葉の血流動態(酸素化の左右差)の指標で評価することには限界があり、心電図周波数解析を含め作業仮説の検証が必要であろう。
■研究助成金対象者
姫路獨協大学 医療保健学部 理学療法学科 専任講師 金﨑 雅史 様
■研究課題名
慢性閉塞性肺疾患患者における呼吸神経ドライブ、呼吸筋力、呼吸抵抗を用いた急性増悪予測指標の確率
慢性閉塞性肺疾患患者(以下COPD)の急性増悪予測指標に関する研究であり、53人のCOPD患者の後方視的な研究である。COPDにおいて身体活動の主たる制限因子は呼吸であり、呼吸仕事量増加は労災時の息切れや生命との関連が指摘されている。呼吸抵抗や呼吸筋力の影響を早期に確認することにより、COPD患者の予防方法を確立することは重要なことである。今回の研究では、COPD増悪者と非増悪者の間での比較では、3MST(運動負荷試験)において有意な差(増悪群が有意に呼吸不安感が高かった)が認められたとの事であるが、それを踏まえて、どのような介入が良いのか?までを考察されると、この研究価値がより明確になるかと思われる。この研究を踏まえて、COPD患者の急性増悪の予測指標の更なる研究を期待したい。
研究助成実績報告書に関しては、結果までとなっているが、考察も踏まえた内容であるべきであり、また、結果も数値の列挙が多く、グラフなどを用いてわかりやすく記載すべきである。
■研究助成金対象者
獨協医科大学埼玉医療センター リハビリテーション科 理学療法士 鵤 夢歩 様
■研究課題名
脊髄性筋萎縮症(SMA)電動車椅子幼児モデル案の作成と脊髄性筋萎縮症幼児の電動車椅子操作能力の検討
脊髄性筋萎縮症(以下SMA)患者6名に対して、電動車いすを作成し、設定上の有用性を検証した症例検討である。6例ではあるが、一例ずつ丁寧な評価および分析をしており、結語として、小児疾患は個別性が強く、児に応じた対応が必要であるが、そのポイントはティルト角度やコントローラーの位置と上肢サポートの位置と結論付けている。
小児疾患のシーティングに関しては、電動車いすの使用感のみでなく、ご家族の評価も重要であるため、今後も継続的な研究を期待したい。また、SMA患者が電動車いすを使用することにより、各種活動・参加への影響の検討も期待したい。