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2025.07.30

研究助成

古川医療福祉設備振興財団第10回研究助成による研究報告書 講評

※敬称略 役職等は研究助成申請時のもの

■研究助成金対象者 
工学院大学 建築学部建築学科 助教 江 文菁 
■研究課題名 
産後ケア事業における医療福祉環境に関する研究

人口20万以上の128自治体を対象に、「産後ケア事業における医療福祉環境のあり方」について調査・研究を行った。その成果として、産後ケア事業および産後ケアホテルの実施状況や課題を明らかにし、今後の環境整備に資する知見を提示した点は高く評価できる。産後ケアは母親の身体的・心理的回復を支援し、母子の愛着形成や健全な育児につなげる重要な事業であり、自治体が主導して支援体制を構築することが求められている。一方で、産後ケアホテルの継続には経営面での課題も大きく、特に「母子の安全安心を最優先とした人員配置」が採算性を圧迫している現状も明らかとなった。今後は、医療的・看護的支援の要である助産師、とりわけ地域に根ざした助産所の役割に注目し、自治体、病院、診療所、助産所、育児支援機関などが連携した包括的な産後ケアシステムの構築が求められる。これにより、持続可能かつ質の高い支援が実現し、子どもと家族の未来につながるものと期待される。


■研究助成金対象者 
三重大学臨床工学部 医学部附属病院 主任臨床工学技士 松月 正樹 
■研究課題名 
電波監視装置を用いた医用テレメータアンテナシステムの改修方法に関する検討

新型コロナウィルス感染症を契機に医療機関における電波利用機器の活用が拡大し、適切な電波管理を行うための運用管理の整備の重要性が認知されており、電波に関するトラブル事象対処のために医用テレメータにかかる建築ガイドラインも策定されている。
本研究は、医療現場における電波の受信状況を測定する高価な医療機器点検器具のスペクトラムアナライザ(スペアナ)と新たに開発されたソフトウェア無線機を利用した低コストの電波管理装置との比較検証と、アンテナシステムの経年劣化の評価に対する測定方法の効率性とその測定値の評価判定による改修の適正化を検討したものである。
実際に、医療施設の一般入院2病棟で電波送信地点を病室各所で遮蔽状態を考慮して、スペアナと電波監視装置で実測し、装置による測定値が同様の傾向であることが示され、簡便な操作でアプリケーションによる数値の自動算出が可能な電波監視装置の優位性を示唆している。
また、アンテナシステムの劣化度評価には6病棟で実測し、病棟単位での測定値から改修順位を設けてアンテナの部分的な再敷設の評価基準とすることによる適切な運用管理に寄与できることを提起している。今後、さらに時間変動などの検証を行い明確な管理手順の確立を期待する。


■研究助成金対象者 
関西医科大学 リハビリテーション学部 助教 中條 雄太 
■研究課題名 
脳卒中後片麻痺歩行における筋シナジーの障害像ごとのロボットアシスト歩行練習効果の検証

本論文は、脳卒中後片麻痺患者に対するロボットアシスト歩行練習の効果を検証した研究であり、筋シナジーの観点から個別最適化された歩行訓練プログラムの開発を目指している。特に、半腱様筋の活動パターンが効果予測因子として有用であることを示した点は、臨床における適応判断において重要な知見である。歩行速度の改善が見られた症例と改善が見られなかった症例とを比較検討し、介入効果の違いを詳細に分析している点も評価できる。結論として、ロボットアシスト歩行練習は筋シナジーに基づいた個別適応の検討が必要であり、半腱様筋の活動パターンがその指標となることが示唆された。サンプルサイズの小ささや介入頻度の制約といった課題はあるものの、今後の研究において実用性の高い知見を提供する内容である。今後は、より多くの対象者を用いた検証や介入期間の延長、歩行速度向上のメカニズムの解明が求められ、歩行治療の個別最適化に向けた一助となることが期待される。


■研究助成金対象者 
尼崎だいもつ病院 リハ技術部理学療法科・副主任 丸石 善久
■研究課題名 
脳卒中片麻痺患者において独歩獲得に必要な要因の検討 
―体幹・下肢の超音波画像診断による評価に着目して―

本論文は、脳卒中片麻痺患者における独歩獲得に必要な要因を詳細に検討しており、特に体幹筋群の質的評価と歩行能力との関連を明らかにしようとする点で極めて意義深い内容である。超音波画像診断装置を用いて、体幹筋群の筋厚および筋輝度の経時的変化を測定し、身体機能や動作能力との関連を分析する手法は、臨床現場での応用可能性が高く、実践的な価値を有している。とりわけ、筋厚においては安静時の麻痺側外腹斜筋、筋輝度においては非麻痺側内腹斜筋および腹横筋に有意差が認められた点は、今後のリハビリテーションプログラムの設計において重要な知見を提供するものである。結論として、入院時の評価では退院時点における歩行補助具の必要性を予測することは困難であるが、退院時点での変化量を分析することにより、補助具の使用の必要性について一定の説明が可能であることが示唆されており、今後の研究においてさらなる検証が期待される。


■研究助成金対象者 
筑波大学 医学医療系整形外科運動器再生医療学 助教 相馬 裕一郎 
■研究課題名 
人工股関節全置換術患者の術後早期歩行能力回復過程に影響を与える予測因子の解明 
―生体力学的評価を用いた多因子解析―

人工股関節全置換患者において術後早期の歩行開始は日常活動を早期に回復する上で重要であるが、これまでかかる患者での歩行能力を客観的に評価する指標が乏しいなかで、本研究では表面筋電計と動作解析装置を併用し、歩行機能の回復に影響する因子を21症例について検討した。歩行パラメーターとしてCadence(steps/min)、歩行安定指標(Root Mean Square)、歩行周期中の骨盤可動域、について経時的に調査した。結果の一部として歩行変動性では歩行パラメーターと共に2週間で回復するも1か月では正常に復しなかったこと示された。
今回の検討では目的とする因子の解析には至らなかったが、得られた結果をどう今後の解析に応用するかが大事であり、まず臨床的回復不良群の背景について一般的臨床指標で検討し、その結果を新たな指標での検討にどうフィードバックできるかなど、研究デザインを詰めていくことも考慮して頂きたい。


■研究助成金対象者 
兵庫医科大学 臨床教育統括センター 理学療法士 本間 敬喬
■研究課題名 
ジャイロセンサーを用いた急性期脳卒中患者の筋パワー評価
~歩行速度へ筋力と収縮速度のどちらが影響を及ぼすか~

脳卒中患者にける発症早期の回復を妨げている因子に骨格筋の機能低下があるが、その背景には骨筋肉量の低下があると考えられている。一方、本研究ではその質(パーフォーマンス)の評価も大事であるという前提で筋パワーに着目した。対象は急性期脳卒中患者53例。研究方法は筋パワーの指標としての膝関節伸展角速度はジャイロセンサーを用いて測定した。筋力評価は等尺性膝関節伸展筋力を用いた。結果として、麻痺側は非麻痺側に比して諸指標は低値を示したが、歩行速度に影響する因子は得られなかった。これらの骨格筋特性が筋のパーフォーマンスと関連するかは今後の研究に委ねた。
今回の結果を今後の研究に生かすには、まずは対象として発症後72時間以内の急性期患者が適切か、そして発症後数週間における問題点を一般的臨床指標で分析し、その中で筋パワーがどう関与しているかを検討するなど急性期患者にどうフィードバックできるかの検討も考えて頂きたい。


■研究助成金対象者 
新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 理学療法学科 助手 星 春輝
■研究課題名 
脊髄の神経活動を調節する非侵襲的刺激法の開発及び痙縮の改善を図る新規治療戦略の創出

本研究は、脳卒中後の痙縮に対する新たな非侵襲的治療法として、シン磁場刺激による脊髄神経活動の調節効果を検証したものであり、臨床応用を見据えた意義深い取り組みである。従来のtSMSでは深部への刺激が困難とされていたが、3つの磁石を用いたシン磁場により、脊髄という深部領域への影響が可能となる点に着目した点は新規性が高い。実験1では、H反射を指標として脊髄内神経回路の興奮性を評価し、シン磁場刺激直後に有意な減弱が認められた。これは、磁場が神経細胞膜やイオンチャネルに影響を与えることで神経活動を抑制するという先行研究の知見と一致しており、シン磁場の神経調節効果を支持する結果である。一方、実験2ではSEPに有意な変化は見られず、脊髄後根神経節への磁場到達が不十分であった可能性が考察されており、磁場の空間分布と神経構造の位置関係に基づいた分析は非常に説得力がある。
全体として、本研究は非侵襲的な神経調整技術の可能性を広げるものであり、神経リハビリテーション分野における貢献度は高い。


■研究助成金対象者 
兵庫医科大学大学院 医療科学研究科 山木 健司
■研究課題名 
急性期脳卒中者の身体活動は骨格筋量低下の予防に寄与するか?

本研究は脳卒中に罹患した者がその後に身体活動の不活発や栄養不良などから骨格筋量が経時的に減少していくが、身体活動を活発化することで減少を防ごうという研究である。小規模な軽症患者を対象とした先行研究を踏まえて、大規模な脳卒中急性期の中等症から重症の患者も含めた患者を対象に、身体活動レベルが高いほど骨格筋量の減少が少ないという仮説を立て分析している。急性期病院に入院した脳卒中者281名のうち条件を満たし、理学療法士によるリハプログラムを受けた167名を対象とした結果、骨格筋量の減少を認められるものの、軽症群では身体活動が高いほど減少は小さく中重症群では関連は認められないとしている。また重症度の違い、軽度の身体活動も骨格筋量の減少阻止につながるなど新しい知見が示されている。テーマや手法も適切な研究といえよう。また研究の限界でも述べているが、栄養摂取との関係は今後の探究が期待される。

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