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2018/07/02

古川医療福祉設備振興財団第4回研究助成による研究報告書 講評

※敬称略 役職等は研究助成申請時のもの

■ 研究助成金対象者
新潟医療福祉大学 医療技術学部 理学療法学科 准教授 森下 慎一郎
■ 研究課題名
2型糖尿病患者の身体活動量と身体機能低下との関連性について
■ 講評者名
松田 暉

 わが国で増加し続けている糖尿病患者へ運動療法は併発症発生を抑え、身体活動を向上させる効果が期待されている。しかし、糖尿病患者への運動療法における理学療法的介入の役割についての科学的検討は少ない。研究者は2型糖尿病患者においては身体活動量が身体機能低下に関連するのではという仮説のもと、本研究はその関連性を臨床例で検討し、具体的な理学療法の進め方やリハビリテーションプログラムの構築を目指す研究である。
 研究方法は、外来通院中の2型糖尿病患者80名を対象に、身体活動評価をInternational Physical Activity Questionnaire(IPAQ)によるアンケート調査を用い、身体機能評価には等尺性膝進展筋力、握力、10m最大歩行速度、などを用いた。IPAQで150分以上と未満の2群に分けて身体機能評価を比較検討した。2群間で患者基本情報には差がなかった。結果として、IPAQ高値群は低地群に比し身体機能評価のなかの等尺性伸展筋力、5回立ち上がり時間、10m歩行最大速度で優位に良好であった。重回帰分析では等尺性膝伸展筋力が最も高い識別値を示した。
 これらの結果は、外来通院中の2型糖尿病患者への運動療法の指導において、下肢筋力の向上を一つの目標とすることの妥当性を示したもので、臨床現場に応用できる研究と考える。今後は身体活動量評価の客観的指標の導入と前向き介入研究の実施が待たれる。

 

■ 研究助成金対象者
株式会社 藤記建築研究所 代表取締役 藤記 真
■ 研究課題名
共通の設計条件下での病室・病棟の平面計画の比較検討
■ 講評者名
山本 行俊

 当報告書は、これまで病院設計者が望んでも出来えなかった、病室・病棟の定量的分析がなされ、今後の設計の一助となる可能性が高いと思われる。
 病室や病棟の建築形態は、その病院が持つ医療機能に大きく関わるが、この研究成果が、病院標準モデルとなり、医療機能の差異を加味する事により殆どの病院計画で利用可能である。
 さらに病院面積の30~40%を占める病室・病棟のコスト比較は、厳しい建設環境の中で設計者のみならず病院経営者の検討のための指標となる可能性がある。
 また報告書末尾の「病棟全体見た場合のフレキシビリティや工事費については、今後の取り組み」とあるように、さらなる研究の成果を期待したい。
以下に研究各項目について講評を行う。
第一章 病室の平面計画の比較検討

  • 共通設計条件で、ベッド・カーテン間が730㎜とされているが並列配置の場合ベッド間隔が1.460㎜となり、患者プライバシーの視点から望まれる1.800㎜より狭い。
  • 病室の床頭台の配置は、患者の左側、また医師は患者の右側から診療を行うのが原則であり、現状では殆どの4床室で考慮されていない。今後の検討課題である。
  • 今回の報告とは異なるが、4床室に併設のトイレは他の入院患者の視線が気になるとの意見も多い。患者用トイレを分散集約すれば病室の機能性が向上すると思われ、今後の検討課題である。
  • それぞれの分析結果を棒グラフで示されているが、総合的に評価するための資料として面積、改修費、工事費が一目で分かる資料があるとなお分かりやすくなる。

第二章 病棟の平面計画の比較検討

  • 病室以上に分類が難しい病棟を、面積比較を含めたそれぞれの項目ごとに均等化し、数値に基づく分析・評価は、他の文献ではない優れた研究である。
  • 病棟分析比較に関しても、病室同様病棟形態によるメリット・デメリットが、一目で分かる資料があるとなお分かりやすくなる。
  • 病室で分析・評価同様、病棟形態別工事費の検証がなされていないが、今後の検討課題である。

 最後に病院設計は、様々な条件のもと計画されるが、この研究報告にあるように、様々な条件を均等化し定量的な分析・比較は皆無といっていいほど資料がなく、設計者の経験や病院側の要望の強弱により進められることが多い。その結果竣工後使用者からの苦情が出ることもある。
 この研究報告は、病室・病棟に限られているものの、今後の病院設計の一助となることは間違いない。今後ともこの研究報告のさらなるブラッシュアップ、さらには病棟のみならず、その他の部門計画の評価手法が確立されることを望んでやまない。

■ 研究助成金対象者
学校法人藍野学院 藍野大学医療保健学部臨床工学科 准教授  山崎 康祥
■ 研究課題名
「術者を問わずに容易にカテーテル通線作業ができる器具の臨床課題解決に向けた試作及び試用実験」
■ 講評者名
加藤 毅

 前年度に引き続く「カテーテル等の細径デバイスを、容易且つ安全に取り扱うためのワイヤ通線冶具などの開発」研究の試作、試用段階の研究であり、前年度に完成した試作品に実用実験を重ねつつ、さまざまな実用的な改良を加えることで今年度研究目標がクリアされ、動物実験や医療手技トレーニングでの有用性の検証を残しているとはいえ、実用化・事業化を目前とし得る段階に至っている。
 一方で滅菌処理については、オートクレーブによる高圧蒸気滅菌方式では実用に耐え得ないことを実験結果に基づいて確認すると共に、酸化エチレンガス滅菌(EOG滅菌)で実用できることを確認しているが、高圧蒸気滅菌方式を専らとする医療機関においても対応が可能になるよう使用材料の変更等も今後の課題と捉えている。
 本研究のような多様なデバイスメーカーによる多様な製品群と、医療施術者の中間にあって、治療手技の効率化のみならず施術準備作業時間の短縮、手技上の安全性の増幅、手技ミスによる資材損耗の減少などの幅広い実用目的の達成を目指す臨床工学的研究は極めて有意、有効であり、今後の研究の進展に大いに期待するものである。

 

■ 研究助成金対象者
甲南女子大学 看護リハビリテーション学部 理学療法学科 助教 野添 匡史
■ 研究課題名
急性期脳梗塞患者における安全な早期離床実践のための自律神経評価システムの構築
■ 講評者名
小松 正樹
本研究は、発症後間もない急性期脳梗塞患者に対し早期離床の実践が合併症の予防、予後の機能改善に有効と考えられてきたことに対し、より安全な離床実現の方策を探る研究である。
即ち脳梗塞発症後24時間以内に開始する頻回な超早期離床(平均6.5回/日)は、通常ケア(平均3回/日)と比して機能予後を悪化させることが報告されたことから超早期離床の再考が必要との視点にたち、実際の脳梗塞患者を対象に自律神経機能測定評価を行い、安全な早期離床実践の可能性検証を行ったものである。これは脳梗塞患者に対して自律神経評価の研究結果の十分な臨床応用がなされることで、脳梗塞患者の症状進行を予防しつつ安全な早期離床の実践に繋げられないかを検証しようとするものである。
結果として早期離床実践中に自律神経活動は変化し交感神経活動亢進により血管収縮を招き脳内血流減少を引き起こし、それが症状進行の一因となる可能性を指摘している。このことから、より安全な早期離床実現にはより簡便な自律神経評価システムの構築必要性が有益であると提言している。
本研究は今まで実践されてきた早期離床の考え方に新たな視点を導入し安全な早期離床の可能性を探るものであり価値のある研究といえる。しかしながら、本研究での有効測定対象数は21例であり評価対象事例数としては少ないため、広くデーターを収集し評価結果の確からしさを向上させることが必要である。(LANCETでは1000例近くの事例を挙げている)

■ 研究助成金対象者
新潟医療福祉大学 医療技術学部 理学療法学科 准教授 椿 淳裕
■ 研究課題名
インターバル負荷運動に伴う認知に関連する脳領域の血流変化とそれに基づく運動療法プログラムの創出
■ 講評者名
松田 暉

 高齢化社会において増加する認知症患者への運動療法に期待が高まっているなかで、一定負荷量での有酸素運動の効果が認知機能の改善をもたらすという研究成果がある。この研究グループは前頭前野の脳血流増加が認知機能を改善するという仮説のもと、これまで精力的に研究を続けている。具体的な生活環境では、一定期間持続する運動負荷と休息を取り入れるインターバル負荷のどちらが有効かは懸案事項である。
 本研究は健康若年青年18名において近赤外分光法を用いて二つの方法を比較したものであるが、両者間で左右別にみても有意の差は認められなかった。このことより、インターバル負荷運動は一定負荷と同様の認知機能の改善に効果が期待できる可能性を指摘している。
 臨床現場にフィードバックできる研究になればと思うが、これまでの研究の延長とはいえ健常者対象のパイロット研究の域を出ていない。今後の研究展開に期待するが、認知症を含む高齢者を研究対象にする必要があること、効果が得られる予測として認知症と加齢に伴う認知機能低下との区別をどうするか、前頭前野の血流増加が認知機能の改善に繋がるのではという仮説にどう向き合うのか、といったことを念頭に研究を発展させて頂きたい。

 

■ 研究助成金対象者
兵庫医療大学 リハビリテーション学部 理学療法学科 准教授 森 明子
■ 研究課題名
骨盤底筋トレーニングプログラムにおける指導的介入の実施時期に関する研究
■ 講評者名
田中 一夫
本研究は、昨年度(2016年度研究助成)の「尿失禁に対する骨盤底筋トレーニング習慣化プログラムの構築」に続くもので「骨盤底筋トレーニングプログラムにおける指導的介入の実施時期に関する研究」として、尿失禁者への失禁回避、回数低減へ向けてのトレーニング時期に着目して、従来からの通常実施群(初回、4、8週指導)対して、早期実施群(初回、2、6週)において差が生ずるか、訓練時期の適正時期について2通りのアプローチで調査を行った研究である。最初のアプローチ(フィードバック期間とその後の自主トレーニング期間)では、被検者数が少ないこともあり、早期実施における患者自身の評価点(夜間排尿回数、1日当たりの排尿回数など)のポイント付での評価となった。結果においては、中間時点(6週面評価)では回数の低下などが見られ早期指導介入が有効であるとされたが、同被検者の8週時点では、初回時と大きな変化なしとされ、その原因が指導介入後(7週以降)の各自トレーニングによる差である(可能性)と結論でづけており、その部分においては調査方法、分析の曖昧さが指摘されよう。
もう一つのアプローチ(フォローアップの実施期間の違いによる効果の比較検討)において、実施時期は異なるが、過去の調査(2015.07~2017.12:通常群)と今回調査(2017.07~12:早期群)の2つのグループに対して同様な調査項目で評価し集計、分析しており解り易い研究となっている。一部評価の数値の分析に齟齬(早期群:夜間頻尿回数効果量0.35、1日当たり排尿回数効果量0.39に対して通常群:夜間頻尿回数効果量0.25<0.35OK、1日当たり排尿回数効果量0.46>0.39逆効果)があり訂正する部分があるが、研究方法、被検者への配慮などきめ細かな調査の進め方や統計数値の検証・検定方法が示され、好感のもてる調査方法であることは評価できる。また、骨盤底筋トレーニングでの「フィードバック」「フォローアップ」の定義を冒頭で示しておいた方が、より解り易い論文となったと思われる。

 

■ 研究助成金対象者
関東学院大学 建築・環境学部 教授 古賀 紀江
■ 研究課題名
医療・福祉施設における働く環境の質とスタッフのQOL
■ 講評者名
山崎 敏

本研究は医療福祉現場での労働負荷の緩和を目指し、施設環境の質を向上させることを目的としている。アンケート調査やケーススタディを通じて、環境デザインと行動支援や心身の健康度などを明かにするものである。従来、介護施設におけるケアの質や体制についての学術研究は数多くあるが、それに比して医療福祉現場の職場環境に関する論文は建築系においては必ずしも多いとはいえない。食事をとる場、一休みする場、喫煙場などに視点を向け、そこで働く職員の意欲や健康まで幅広く影響すると捉え、主観的健康評価や場所愛着評価を分析している。近年、働き方そのものが社会問題化しており、同時に看護・介護職員の不足は都市部において大きな課題となっている。働く環境の質の重要さが再確認される研究であり、これからの高齢者施設の働き方に光を当て、ひいては様々な職場環境に至る興味深い論文である。さらに研究者は変数とし施設規模や入居者属性などを挙げ、追加調査・分析を実施する予定である。労働環境の質がより明らかにされれば、新たなデザイン展開がみられるかもしれない。テーマの医療と福祉施設現場の相違についても比較検討を望みたく、今後の研究に期待したい。

 

■ 研究助成金対象者
京都府立医科大学大学院 医学研究科 運動器機能再生外科学(整形外科学教室) 助教 古川 龍平
■ 研究課題名
腱板断裂における機能障害の病態解明と病態に基づいたリハビリテーションガイドラインの開発
■ 講評者名
河口 豊

腱板断裂の治療における保存療法の適応やリハビリテーションの内容が確立していないが、その原因としての腱板断裂の病態と機能障害の特徴が十分解明されていないとして、広範囲腱板断裂症例(MRCT)における三角筋の筋活動を検討している。つまり課題のガイドラインの開発そのものではなく、その基礎となる病態把握である。対象は偽性麻痺の上肢挙上不能群MRCT12名、上肢挙上可能群MRCT17名、健常者ボランティア16名であり、平成29年7月11日、12日、8月5日の3日で行ったとしている。肩関節屈曲0度、30度位を各5秒間保持し、中の3秒を積分値でR-muscle値を算出している。結果は三角筋中部繊維のR-muscle値は健常者群(0.61±0.19)よりMRCTの挙上不能群(0.85±0.14)と挙上可能群(0.87±0.08)では有意(p<0.01)に高値を示したが、MRCTの両群間では有意な差は見られなかった。また三角筋前部及び後部繊維のR-muscle値は3群間に有意な差は認められなかった。そこでMRCTの三角筋中部繊維の筋活動は健常者と比較し有意に高い値であったが、三角筋各線維の筋活動は上肢自動挙上の可否に影響しない可能性があると結論付けている。
三角筋の筋活動を筋電図を使って数値的に捉え、それを統計処理して客観的に示している。
そして健常者と、上肢挙上不能群および挙上可能群とでは差があること、また挙上不能群と挙上可能群では有意な差がないことを導き出している。三角筋の筋活動の基礎的な研究として今後の発展が期待できよう。それら差のあるなしについてのメカニズムの解明につながることを期待する。ただ病態解明に向けた基礎の部分の研究といえ、そのために総合的な研究題名ともいえる「腱板断裂における機能障害の病態解明と病態に基づいたリハビリテーションガイドラインの開発」にはこれからいろいろな研究を経て成果を集積する必要があろう。今回の研究の題名には研究内容に合わせたものするのが望ましい。

 

■ 研究助成金対象者
東京都市大学大学院工学研究科 建築学専攻 博士後期課程 伊藤 朱子
■ 研究課題名
特別養護老人ホームにおける入居者の重度化への対応
浴室・トイレ・個室・共有空間のあり方に関する研究
■ 講評者名
細入 誠一

特別養護老人ホームの個室ケアユニット型への新築移転に伴うタイミングを捉え、個室のあり方と同時に、共有空間である食堂空間についても考察し、個室と共有空間が入居者の重度化へどのように対応してゆくかアンケートと家具配置により入居者と施設職員の行動変化の考察を主な手段として考察している。単に、変化を求めるのではなく、空間の変化とそれへの具体的な対応を考察することにより、どのように対応してゆく必要があるのかを考察している。大変丁寧な調査である。
高齢化の現実に向き合い、時間をかけ、細かく 丁寧に調査を続けてゆくことは、入居者を快適に住まわせ、かつ従業員のスムースな動きを手伝うための重要で具体的な調査と考える。
新旧の施設と、さらに新施設の時間経過による日常行動の変化を、結果として現れる個室と食堂の家具配置に求めている。家具配置の結果として起きた機能への影響を施設職員及び入居者の行動やその家族へのヒヤリングで比較している。
「見守り・介助のしやすさ」と「声掛けや会話」等、相矛盾する行為があるものの、一定の広さを持つ個室や食堂がその動線を変化させ、滞在場所を多様化できている。結果として「動線上での声掛けや会話」等により、「見守り・介助のしやすさ」だけでなく入居者との関わりを増加させることも出来ている。
空間のあり方と効果の現実を捉えた調査が、さらに現実の方向を動かすと考える。設計者にとっては「見守り・介助のしやすさ」と「声掛けや会話」等、相矛盾する行為を建築空間にまとめる、一つの有効な研究であると考える。

 

■ 研究助成金対象者
工学院大学 建築学部 建築学科 准教授 境野 健太郎
■ 研究課題名
「重度・重複障害児のための特別支援学校の環境整備に関する研究」
【目的】
特別支援学校の空間利用の状況の把握と課題の抽出
【調査概要】
1)教室空間の物理的環境要素の把握、2)児童生徒の日常生活動作・障害程度と医療的ケアニーズの把握、3)時間割による教室利用の状況把握、4)学校滞在時の居場所・行為・姿勢の関わりの把握
■ 講評者名
山下 信一

 ユニット型プランを導入した重度重複障害を持つ支援学校の先進的な研究調査である。具体的にはユニット型プランで小上がり空間を有する支援学校の教室において、各児童の日常生活動作(ADL)、授業形態、行動観察について丁寧に調査を行い、分析がなされている。ユニット型プランの導入が多様な教育支援の方法に展開されていることは認めるが、小上がり空間での臥位など安全面に関する調査分析および、今後の児童生徒の重度化や就学児童への増加への対応について研究することが望まれる。今後に向け、ユニット型以外の支援学校との比較対照や、日照条件や室内の温度分布など環境要因との空間利用の相関、教職員や看護師の行動観察や動線分析を行うとともに、継続的に研究がなされ、具体的な支援学校の建築計画への提言となることを期待したい。また、特別支援学校に通う児童が増加している現状において、今後さらに支援学校の重要性は増すと思われる。よって、支援学校の建築計画的なアプローチである本研究の社会的意義は大きいものと評価したい。

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