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2016/06/06

古川医療福祉設備振興財団第2回研究助成による研究報告書 講評 2016年5月31日

■ 研究助成金対象者 
  東京電機大学 情報環境学部 助教  江川 香奈
■ 研究課題名 「病棟の食事環境と利用者ニーズに関する調査研究」
■ 講評者 山下 信一

入院生活における食事環境の分析として、東京都内の病院でのアンケート調査、行動観察及び国内外の病院の視察調査した研究である。病院での食事の役割は治療への貢献、安全な食事の提供、食べる楽しみなどがあり、さらに食堂での食事は気分転換、リハビリ・運動、生活リズムの構築という面も持つ。調査研究にもある通り、車椅子等の歩行状況や医療用具の有無、レンジ・トースター等の備品の有無、食堂の混雑状況、配膳方法、病棟の個室割合などにより食堂利用ニーズは大きく異なっていることがわかる。できれば、食堂希望場所のアンケート結果では食堂利用希望が約2割に対し、病室利用希望が約4割であることに対し、「プライバシー」や「移動距離」に関しより詳細な分析を期待したい。さらに、国内の事例調査の継続によりサンプル数を十分に確保し、食事サービスの利用者・提供者の双方の視点及び「入院時食事療養費に係る食事療養及び入院時生活療養費に係る生活療養の実施上の留意事項について(通知)」厚生労働省 2010改定)についての言及など、食堂に対する制度的な問題の分析も含め、病院における食堂計画の指針となる調査研究が望まれる。

 

■ 研究助成金対象者 
  兵庫医療大学 リハビリテーション学部 理学療法学科 講師 森沢 知之
■ 研究課題名 「地域高齢者を対象とした身体活動量増加プロジェクトの実践」
■ 講評者 加藤 毅

地域高齢者の身体活動を増加させるプロジェクトの推進に於いて、地域在住の高齢者を対象に、一日当たりの歩数の増加(1300歩)を身体活動量の増加目標値と設定し、3ヶ月後、6か月後に身体機能、身体組成、循環器機能、QOL、自己効力感にどのような影響を及ぼすかについての実験的研究である。
 研究者の誠実な報告では、参加対象者に比較的身体活動量の高い、また健康意識の高い人が多かったと推測されることもあって、身体機能・組成、循環機能に有為の変化は認められないとされているものの、目標達成群ではQOLの改善が見られ、運動充足が精神心理的にも好影響を及ぼしているのではないかと推測している。この種の実験的調査では、対象の設定に困難を伴うが、12ヶ月後の計測に興味が残ると共に、研究者が示唆している、今回の研究結果や、対象設定の難しさを踏まえた上での、対象を拡大した大規模研究への発展継続に期待をしたい。

 

■ 研究助成金対象者 
  東洋大学 理工学部 建築学科 准教授 岡本 和彦 
■ 研究課題名 
 「発展途上国の簡素な事例に学ぶ、日本でのモバイル・ホスピタルの応用実現性に関する研究」
■ 講評者 山本 行俊

ブラジルにおけるプレハブ化による医療施設としての応用及びタイにおけるモバイル化による医療サービス提供に関する調査の結果に大変興味深かった。
これらの事例を踏まえて、日本におけるその応用実現性を考える場合、まず、日本の気候及び地震に対する適応性が重要であると思われる。
 特に、プレハブ化においては被災地での仮設施設やサテライト施設など建築基準法の適用が除外される施設としての活用が期待できる。ただし震災地での活用の際は、余震による影響を考慮しなければならない。
 モバイル化においては過疎地や無医地区における高齢者など移動手段の少ない患者への住診サービスへの活用には効果を発揮すると予想できるが、地域の医師会との連携や地域の公民館の活用によってその効果は大きいものとなるであろう。
さらに、日本には約7,000弱の島が存在するので、離島における診療船による医療サービスの提供の推進に貢献できるのではなかろうか。
プレハブ化及びモバイル化による医療サービス提供における問題点としては、廃棄物の処理方法や病歴データの管理方法があげられ、地域中核病院との遠隔医療の実現も視野に入れる必要がある。
今後、この調査の結果を踏まえた、日本におけるモバイルホスピタルの応用実現に向けた具体的な提案を期待したい。(世界中で利用できるシステムとしても期待する)

 

■ 研究助成金対象者 福島県立医科大学会津医療センター 
  整形外科・脊椎外科学講座 助手 利木 成広
■ 研究課題名 
 「慢性疼痛を有する高齢者における身体的機能とADL及びQOLの関係性の解明」
■ 講評者 松田 暉

 本研究は高齢者のQOLに影響する脊柱異常への理学療法的取り組みであり、高齢化社会での意義は大きい。脊椎後湾症は慢性腰痛やQOLの低下をもたらすが、その背景の身体機能異常を検討した。対象は後湾症女性高齢患者(平均年齢75歳)とし、従来の脊柱アラインメント、可動域の諸指標に体幹伸展筋力、10分歩行テストを加え、ODI(腰痛特異的QOL評価)との関連を検討した。その結果、ODIとの間に計測諸指標とも正ないし負の相関を示したが、重回帰分析で腰椎可動域と最大歩行速度が有意であった。結論として、脊椎後湾症の高齢者ではQOL改善のため多角的な理学療法的評価が求められるとしている。課題として、ODIの背景因子解析に疼痛に影響される歩行速度を加えていること、QOLや歩行速度には脊柱以外に股関節、膝関節の障碍も関与するであろうこと、などが上げられる。今後、腰椎可動域を重要な指標とし体幹伸展筋力測定も加えた理学療法への展開が期待される。

 

■ 研究助成金対象者 帝塚山大学 現代生活学部
  居住空間デザイン学科 准教授 辻川 ひとみ
■ 研究課題名 「「個人実施型」家庭的保育施設の室内計画と戸外活動に関わる地域資源のあり方について」
■ 講評者 田中 一夫

 平成27年4月に施行された「子ども・子育て支援新制度」で、家庭的保育制度が地域型保育事業として児童福祉法に位置付けられたことに伴い、家庭的保育施設の量的な拡大と同施設におけるサービスの質の向上が求められてきている。本研究は、この家庭的保育施設のあり方を、「個人実施型」(保育士の資格を有する家庭保育者(個人)が保育者個人の家庭を保育施設として利用する形)の施設・設備と運営・管理のハードとソフトの両側面から実態調査を通じて明らかにし、今後の個人実施型施設計画における計画手法を確立していくことを目標としており、時機を得た研究テーマといえる。本研究は、同氏らによる先行研究(2014.1,9,11月の日本建築学会論文)で調査した全国の同種保育施設132件を建築平面による施設類化を図り、代表的な施設を訪問し、建築空間と運営・管理について建築計画的調査と運営についてはヒアリングにより類型ごとの特徴を明らかにした比較分析を行っている。また戸外活動調査も地域における保育施設と地域施設の関係性に着目し、保育施設からその近傍の地域施設の利用状況を調査・報告されており行政側にとっても、有益な情報として利用できる内容で、研究の着眼点が評価される。
 研究の結果においては、保育施設の平面形では、「食事と遊びを行う保育室」「午睡と遊びを行う保育室」の分離タイプでそれぞれに入口があり、かつ連続性を有する施設類型が保育運営上、優位であることとされている。
 なお、本財団への研究報告は、日本建築学会計画系論文集No.719(p.23-33)2016.01
「『個人実施型』家庭的保育施設における平面構成と家具・設備計画のあり方について:家庭的保育施設の計画と運営に関する建築計画的研究その3」として2016年度日本建築学会(九州)学術講演会で発表の予定。また帝塚山大学子育て支援センター紀要Vol.1に「家庭的保育施設における施設内容の実態と郊外活動における資源利用の実態に関する調査研究」として2016年6月に掲載の予定とされている。

 

■ 研究助成金対象者 東京都市大学大学院
  工学研究科建築学専攻 博士後期課程 工学修士 伊藤 朱子
■ 研究課題名 
 「特別養護老人ホームの移転改築に伴う環境・活動・状態の変化に関する考察」
■ 講評者 細入 誠一

現状の問題を単に現状解析だけではなく、移転の機会をとらえて既存施設と新施設の平面計画の変化に着目し、その違いが室内環境、職員の行動や意識、入居者の生活、エネルギー使用量などに変化をもたらすと考えたことに実務研究者の現状改革手法が光る。建て替えの1年前から始めるという、時間の必要な作業に入り込むことと、細かな設計者としての視点に期待と賛同を覚える。
これら福祉施設の設計では、法的に必要な条件を満たすために、少ない建築費を前に設計時の建築費予算配分も窮屈な設計になりがちである。そのなかにあって、単に必要面責を満たすのみでなく、その使われ方を実際の観察を地道に続け、施設職員等の運営上の立場だけでなく、入居者との関わりを見極め、室内動線から家具配置、入居者の介護度・身体状況も含め考察している。
設計の初期段階にて配慮する部屋機能と規模のあり方、部署または部屋機能の近接性に配慮し、設計にさらなる確信を持たせる研究である。
具体的には 1:食堂の広さ (一人当たり面積、家具の形と活動) 2:ケア体制のあり方と洗面所、トイレの分散配置 3:居室の個室化(家族と過ごす空間として) 4:廊下幅(採光と第3の居場所としてのあり方) 等についての新しい見方
多くの作業を必要とする新施設においての検証作業にも期待したい。施設職員及び、入居者との関わりの中で、新しい視点が現れる期待がある。

 

■ 研究助成金対象者 立命館大学
  理工学部 建築都市デザイン学科准教授 宗本 晋作
■ 研究課題名 「東日本大震災に係る応急仮設住宅団地の空間利用調査に基づく高齢者の見守り・居場所づくりに関する研究」
■ 講評者 小松 正樹

 本研究は、東日本大震災に係る応急仮設住宅団地(以下、仮設住宅)で、主に高齢被災者のありのままの空間利用行動を観察することにより、地域コミュニティ持続に必要な空間の要件を高齢者の居場所づくりの観点から抽出し、設計要件のプロトタイプとして示すことを目的としている。調査は高齢者世帯入居比率の高い宮古市の仮設住宅団地地区を選定、研究者らによる2週間の生活体験調査を通じ、主に交流の場所である仮設集会所の利用について調査を実施するとともに、調査途中で災害公営住宅への移動傾向がつかめたとして追跡調査を実施している。抽出された設計要件六項目を仮説計画条件として研究者らが作成した集会所のプロトタイプ計画案について、住民にヒヤリングを行い肯定的意見、否定的意見をまとめ、仮設計画条件の検証を行っている。得られた知見は、集会所は自由に立ち寄れること、日中の常時開錠により予定していない日常的交流が誘発されること、生活補助のため来訪してくる親戚など訪問者用の宿泊機能が求められたこと、屋外テラスも外部との繋がりを生む空間であること、建設コストや利用に自己負担が発生すると集会所の建設は望まれず、利用されない可能性があること、既存の仮設集会所を震災体験を伝える遺構として展示、観光資源として活用する、などが挙げられた。調査からは初元的ではあるが実践的な知見が得られており、被災地では特に重要である持続するコミュニティづくりに必要な空間研究の一助となっている。

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