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2015/05/15

古川医療福祉設備振興財団第1回研究助成による研究報告書 講評 2015年4月30日

研究助成選定委員会

1.病院手術の清浄度の現状解明に関する研究   
  山田容子(清水建設技術研究所)

手術室での空気環境における術中感染や術者などの快適性、省エネの開発には汚染源となる患者や術者など、人がいる状態での数値を必要とする。そのデータを模擬手術で収集した研究である。手術室は10m×8m、高さ約3mの手術室で行い、換気回数54回/h(うち外気5回/h)、清浄度ISOクラス7(NASAクラス10000)である。脳腫瘍摘出術をモデルとし、無影灯使用開頭閉頭術と顕微鏡使用腫瘍摘出術の2場面を23測定点で計測した。室内温度は床上50cmと180cmでは約2度の温度差があること、無影灯使用時と顕微鏡使用時では術野に到達する清浄空気量が異なり、粒径0.5μmの粒子は前者で数百から数千個、後者ではなしの測定点が10点も見られ、温度に差ができることなどが確認された。しかし、手術における今回の計測手術室と手術内容の位置づけ、手術室の形状による差異、気流や湿度の測定などは今後の継続的研究を待たなければならない。

 

2.ICTを利用した在宅医療推進のためのコミュニケーション支援の構築 ―安芸太田町を事例として―
  服部健太 (広島国際大学)

 事例として過疎化の進む地域(広島県安芸太田町)を選定し、医療機関である150床規模の安芸太田病院の電子カルテシステム情報と、訪問看護師が訪問時に活用するタブレット端末との患者情報共有化のプログラム開発を行った。具体的には、ICツールによる医師と訪問看護の業務効率化、患者情報の正確な伝達などを実現するための情報入力画面(テンプレート)の作成をアクテイビテイ図を活用して行い、試行による改善を行った。研究内容は実用化を目的に行われており、「タブレット端末を利用した訪問看護記録作成マニュアル」も合わせて作成している。複数のタブレットを携えた訪問看護師による訪問看護活動に同行しながらの調査であり、それにより試行を重ねた結果の情報入力画面を実現している。一方、この情報に対する当事者である在宅療養者の確認の機会、タブレットの保管(保存・管理)などの課題などは今後に残されているよう。

 

3.在宅医療のための人工透析機器インターフェース設計に関する人間支援工学的研究
  岡耕平 滋慶医療科学大学院大学

 在宅における血液透析装置の利用状況を調査し、人間工学の観点から在宅血液透析装置の安全性の課題を調査したものである。調査結果から在宅の患者及びその介助者の操作を意識した操作設計となっていないことが明らかになったことは、今後の在宅透析が増加していく流れを踏まえて有用な成果であるといえる。多くの機能が使用されていないとの記述があるが、これは操作に習熟した臨床工学技士を中心としたスタッフが操作・設定することを前提として設計された医療施設向け機器を、在宅用に転用していることが原因となっている可能性がある。またメーカーの長い歴史の中で不必要な機能が残っている可能性もある。在宅透析においてアラームの意味を解釈することが困難であり、困惑しているという調査結果を示しているが、今後この調査例数を増したり、在宅医療支援センターや患者会の意見も組み込んだ調査を進めることが望まれる。

 

4.病院BCPを支援するFMツール策定(個別病院から地域全体へ) 
  上坂脩 日本ファシリテイマネジメント協会

 災害時に病院の医療機能継続を支援するツールを改良し、また地域の医療機能継続を担う関係者を支援するツールを開発する作業を行ったものである。災害後に病院が受け入れられる重傷者数の限界点を明確にし、これらを組み入れた計算ロジックを作成している。
また時系列的に災害行動計画を作成することにより、支援ツールを構成する各部分システムの位置づけを明確にしている。これらの成果を実用可能とするためには各医療施設に負担を増やさない方法が必要であり、そのソフト解決が望まれよう。救急担当病院の空き病床数の届けも実際には円滑に運んでいない例もある。さらに事業継続訓練では活用するツールとして、時間に伴う能力変化を試算、自ら疑似体験、心理的葛藤低減などを重視している。住民や医療施設の災害時対応訓練の体験は有用と評価しているが、これも実施へ向けて課題が残されているといえよう。

 

5.地域の建築ストックの福祉転用可能性調査―公的賃貸住宅及び空家を対象として―
  小池志保子 大阪市立大学

 事例[1]は竣工後40年以上経つ泉北ニュータウンの1住棟を取り上げ、改修案を外付け廊下型、階段室EV設置型、廊下貫通型など5モデルを示している。うち3モデルは既存研究で発表し一部実現させており、その詳細な調査・比較検討は評価される。ただ介護・福祉に関連する比較項目は報告ではバリアフリーアクセスのみであること、単身高齢者の想定だが介護者の同居や介助を必要とする時のスペースなどの検討が必要であろう。事例[2]は伝統的木造長屋を取り上げ、そのうちの1軒を小規模就労支援事業所として再生し、ネットワークの一つとして活用可能かを調査している。事例[3]は上記2例を踏まえて商店街に面した古民家を再生して、複数の商店が共同してテナントとなり複合商店とイベントの場にし、地域の活性化につなげる計画である。再生の好例として成功されることを望みたい。ただ、高齢者対応、特に和風民家における詳細設計などの課題も残されていよう。
 

6.介護付き有料老人ホームにおける転倒事故発生率と気象条件の関係に関する研究
  高木舞人 (環境省事業専任特任)

 気象条件が室内環境に大きな影響をもたらすと同時に身体機能にも影響し、転倒事故が発生する要素になっていると考え、介護付き有料老人ホーム2施設(A、B)で事故記録、現況調査、ヒアリング調査と気象庁による気象データを突合させ分析した。A施設では夜間から明け方にかけて多くの事故が発生しているがB施設では特に時間帯に関係なく、場所的には居室がともに約半数と多い。照明環境の工夫は特になされていない。1時間あたりの事故発生率では9時から14時30分の時間帯に集中している。温熱環境(気温、湿度、PMV)では冬に多いなど季節による差が大きく、気温は20度後半付近を境に事故発生率が多くなる。日照時間が長いほど発生は低いが雲量が少ないほど低いわけではなく、高齢者にとっては適度な明るさが必要なことを示した。また気圧の変化が起きた時に事故発生率が増減している。調査施設数を増す、他の要素がないか確認するなどの継続研究が望まれる。

 

7.高齢者に向けた湿度制御による快適環境と健康環境の創造
  川上梨沙 清水建設技術研究所

 湿度環境が人間の生理と心理に及ぼす影響を、空気温度と湿度(相対湿度・絶対湿度)を任意に変化させた空間で被験者実験を行い基礎的資料を収集した。温湿度・空気環境、生理測定、心理測定として被験者の感想アンケート(非常に不快から非常に快適までの7段階)を行っている。実験は条件の異なるA、B2室で順応待機、生理測定、心理測定の3過程を続けて行った。結果は、温湿度条件は心理、生理の双方に影響を及ぼすことが改めて確認できたが、心理変化量よりも生理変化量に温湿度条件との相関が高かった。今後は生理評価も踏まえ温湿度設定を考慮する必要がある。本研究では限定された条件・被験者の結果であり、湿度と快適性について明快な相関関係が導き出せなかったことは残念であるが、今後、医療、福祉施設での継続的な実地研究により、高齢者に対する快適環境と健康環境に両立させる、さらなる環境の創出に向けた手法の確立となることを期待したい。

 

8.急性期病院における看護拠点のあり方と業務効率の関連性についての研究
  小菅瑠香 神戸芸術工科大学

 本研究は病棟スタッフ動線の評価に、SS理論のコンベックスマップを手法とした点が新鮮である。結果として物理的距離の観点ではなく心理的な観点からの距離を求め、「移動効率性」を新しい距離の指標とした点に価値がある。ヒアリングの中にあるが「病室が近くなった」のは物理的距離よりも感覚としての距離と推察できる。また移動効率性を高くすることで、患者の状態によるベッド配置にも余裕を作る可能性が読み取れる。その為プランニングへの示唆的な資料として実際に使用したコンベックスマップを示し、YM1、YM2の違いを示す必要性を感じる。考察にもあるが急性期病棟におけるセキュリテイやプライバシーの重要性とともに、スタッフステーションのカウンターのあり方にも工夫が必要であることは理解できる。距離的要素や凹凸のある空間の業務のしやすさの評価と並べて、「移動効率性」の視点をもつこの研究は、プランニングを評価する指標の一つとなろう。

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